あの日、あの時のスズキ

たけまん

2017年10月31日 22:22




このスズキは一年前、泉南の海で、僕に釣られた。






一度はルアーを見切った。

ピックアップ寸前、銀鱗が翻ったのが見えた。




もう食うのをやめればいいものを。

数投目、またもやピックアップ寸前で今度はバイト。

そして、僕に釣られてしまった。





叉長を計られ、背中にタグを打たれ、リリースされた。













それから一年。




あのスズキは、どこの海や川を行き来したのか…

それとも同じ泉南の海でずっと暮らしていたのか…

残念ながら、それは分からない。




分かったのは…




一年後、僕に釣られた場所の少し沖で、漁師の定置網に入り、その一生を終えたこと。





JGFA再捕報告書。

















今回のスズキは再リリースされていないので、まるでスズキの死亡診断書みたいにも思える…(苦笑)

定置網に入って食用として出荷され、誰かに美味しく食べて頂いたと願いたいですね。




  ◇  ◇  ◇




それでは、データを見てみましょう。













【叉長】


昨年のリリース時には叉長69cm(全長72cm)、今回の再捕でも叉長69cmと、一年では全く成長していない個体でした。

個体差や地域差もあると思いますが、スズキが成長するには長い年月が掛かります。

成魚になるほど成長スピードが遅くなり、70cmオーバーで8年、80cmオーバーでは10年以上掛かるとも言われています。



人間界とは比べ物にならない弱肉強食の世界を生き抜く魚達。

その命に対して敬意を払うことも忘れずにいたいですね。



 
【位置】


再捕された場所はリリースした場所の少し沖で、移動距離は殆どありませんでした。

一年をどのように過ごしたかは不明ですが、成熟した個体だったので産卵に加わったことは間違いないと思います。

移動距離がなく位置が同じと言えど、それも一つの立派なデータです。



スズキは毎年同じエリアで産卵したり、産卵後に元の生息エリアに戻るといった「回帰性」のある個体群がいるようです。

実際に、河川で釣られたスズキが産卵期を挟んで、また同じ河川で再捕されたという事実がタグ&リリース調査で実証されていますし、数年後に同じ河川で、しかも同じ釣り人が再捕している実例もあります。

今回のスズキも一年後の同じ時期に同じエリアで再捕されましたし、以前、僕が再捕したヒラスズキも半年前に同じ磯で釣られており、産卵期を挟んで戻ってきた個体でした。



『タグ&リリースされたヒラスズキを再捕!』
http://takeman.naturum.ne.jp/e2491856.html

『ヒラスズキの再捕結果報告』
http://takeman.naturum.ne.jp/e2511192.html





以上、再捕報告書のデータでした。

こうしてスズキの成長度合や回帰性について考えてみると、また改めてスズキに対する慈しみも湧いてきましたし、リリースやバッグリミット(持ち帰り制限)の重要性についても考えさせられましたね。




  ◇  ◇  ◇




日本の研究機関では、水産試験場などが魚の標識放流を実施していますが、それは水産資源として価値の高い食用魚に限られるのが現状で、釣りのゲームフィッシュを対象としたタグ&リリース調査はJGFAだけです。

JGFAのタグ&リリース調査では特にスズキの実績が多く、その集積したデータによって、これまで知られていなかったスズキの生態が明らかになるなど、第一級の資料として評価されているようです。

僕も微力ながら協力できればと、主にスズキ、ヒラスズキをタグ&リリースしています。



とは言え…



魚体にタグを打ち込む時はいつも、複雑な心境になります。

「自己所有欲の為のタグ&リリースになっていないか?」

「自分のやっていることって、本当に正しいことなのか?」

未だ自問自答しながら続けているのが正直なところです。



果ては、釣り人という人種の性にさえ矛盾を感じる時もありますが…

そんな矛盾を咀嚼し、反芻しながら、これからも釣りを続けて行くのでしょうね。





さて、木枯らし1号も吹きました!

とりあえず、僕もそろそろ…

スズキ釣り、始動したいと思います!!





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